相続放棄をした後の遺産の管理責任

相続放棄をした後の遺産の管理責任について

相続放棄を行うと、法律上、最初から相続人ではなかったとみなされ、遺産に対する権利や義務は一切なくなります。しかし、相続放棄をした後でも、一時的に遺産の管理責任が求められる場合があります。また、相続人全員が相続放棄をした場合には「相続財産清算人」の選任が必要となることもあります。本記事では、これらの点について詳しく解説します。

相続放棄をした人が負う管理責任とは?

相続放棄をした人には、法律上、**「自己のために相続の開始があったことを知った後、次順位の相続人または相続財産清算人が決まるまで、遺産を適切に管理する責任」**が課されます(民法第940条)。
例えば、相続財産に以下のようなものが含まれる場合、その管理が必要です。

  • 被相続人が所有していた不動産
  • 家具や貴金属などの動産
  • 預貯金や株式などの金融資産

管理責任が発生する理由

管理責任は、遺産が他人に損なわれたり、次順位の相続人や相続財産清算人に正しく引き継がれないことを防ぐために発生します。この責任は、次順位の相続人または相続財産清算人に財産が引き渡されるまで続きます。

管理責任の範囲

管理責任は、必要最小限の管理に限定されます。積極的な運用や処分は認められません。具体的な対応例は以下の通りです。

不動産の保護

空き家となった不動産が荒らされたり、損傷したりしないように管理する。

金銭や動産の保管

現金や貴金属などを盗難や紛失から守る。

重要書類の整理

預金通帳、証書類(登記簿謄本や契約書など)を保管し、次順位の相続人や清算人に引き渡せるよう準備する。

債権者への対応

借金の督促があった場合は、相続放棄をしたことを説明し、遺産の管理者が決まるまで暫定的に対応する。

相続人全員が相続放棄をした場合

相続人全員が相続放棄をすると、遺産を引き継ぐ相続人がいなくなります。この場合、遺産を放置することはできないため、利害関係者や検察官からの申し立てにより家庭裁判所が「相続財産清算人」を選任します。

(1) 相続財産清算人とは?

相続財産清算人は、相続人がいない遺産を適切に管理し、清算するために家庭裁判所が任命する第三者です。通常、弁護士や司法書士などの専門家が選ばれることが多いです。

(2) 相続財産清算人が行うこと

  • 遺産の調査と管理
  • 債務(借金)の清算
  • 遺産が残った場合の国庫への帰属手続き

相続人全員が相続放棄をした場合、相続財産清算人の手続きが完了するまで遺産が管理されるため、安心して相続放棄を進めることができます。

管理責任が終了するタイミング

管理責任は、以下のいずれかのタイミングで終了します。

次順位の相続人が確定した場合

相続放棄により次順位の相続人が財産を引き継ぐことが確定すると、責任は次順位の相続人に移ります。

相続財産清算人が選任された場合

相続人全員が相続放棄をした場合、相続財産清算人が選任されることで責任が移行します。

注意点

財産を勝手に処分しない

相続放棄をした人が財産を売却したり消費したりすることは法律違反となる可能性があります。具体的には、「相続人が、限定承認又は相続の放棄をした後であっても、相続財産の全部若しくは一部を隠匿し、私にこれを消費」した場合は、単純承認(相続を放棄することなく通常通りありのままに相続すること)と扱われてしまうことがあります(民法921条)。

早めに専門家に相談する

管理が難しい場合や相続人全員が放棄した場合は、司法書士や弁護士などの専門家に相談しましょう。特に、相続財産清算人の選任に関する手続きまで考えて相続放棄の手続きをする場合は、専門家に相談するべきでしょう。

  • まとめ
  • 相続放棄をした後でも、次順位の相続人または相続財産清算人が決まるまでの間、遺産を保護するための一時的な管理責任があります。また、相続人全員が相続放棄をした場合には、家庭裁判所が「相続財産清算人」を選任し、財産の管理や清算を行います。相続放棄や遺産管理に関する不明点がある場合は、専門家に相談し、適切な手続きを進めることをお勧めします。