今回は、自筆証書遺言の内容が不十分で、故人の遺志通りに相続登記が行えなかった事例を紹介いたします。
今回遺言を残したのはAさんです。Aさんには子供がおらず、配偶者に先立たれて1人で都内自宅に暮らしていました。Aさんには2人の兄弟がいますが、兄弟仲は悪く遺産を残したくありません。唯一仲良くしてくれた姪っ子に今住んでいる自宅を残そうと、次のような自筆遺言証書(「自筆遺言証書」とはこちら)を書きました。
「私が死んだあとは、自宅の土地を姪のB子に遺贈します。私の兄弟には一切渡しません。」
Aさんは亡くなり、B子さんは生前のAさんに言われた通り、自筆証書遺言をもって私たちに相続登記の依頼をしました。
しかし、残念ながらこの自筆証書遺言では、Aさんの自宅はB子さんのものにはならないのです。
問題点はAさんが所有していたのは、自宅の土地と建物であること。土地に関してのみ遺言に記載したため、建物の登記ができないのです。
自筆遺言書は自分で手軽に書ける分、内容に不備がある可能性が高く、遺志通りに遺産が分割されないことが多々あります。自筆証書遺言を書くときは特に、自分がどんな不動産(土地なのか建物なのかその両方か)を持っているかを調査することが最低限するべきことといえるでしょう。今回のケースでは、遺言書の表記方法が致命的であったため、登記申請は断念しました。
では、もしAさんが「土地と建物をB子に遺贈します」と書いていた場合はどうでしょうか。
答えは、場合によるです。
遺言書の基本は、財産を正確に記載することです。本来であれば、Aさんが所有する物件であることを確実に特定できる形で遺言書に記載する必要があります。ただし、「土地と建物を遺贈する」というように漠然とした記載であっても、Aさんが所有する物件が自宅建物と自宅の土地と特定することが出来る場合に限り、登記官の判断で登記できる場合があるのです。
ちなみに、物件の特定方法は住居表示ではなく、法務局管轄の登記簿謄本に記載されている物件の所在を書く必要があります。なぜなら、住居表示の中に、複数の土地建物が存在する可能性があるためです。
結局、Aさん自宅の建物は、仲の良かった姪っ子B子さんに遺贈されることなく、Aさんと仲の悪かった兄弟たち(法定相続人)のものになったようです。自筆遺言書を書くときは、確実に遺志を実行してもらうためにも、不動産の所在を正確に記載することが肝要ですね。